ナポレオンを魅了した叙事詩 

叙事詩とは、伝説や実際の出来事を物語にして韻文(歌)の形式で伝える詩のことです。

物語となっているため、劇を見ているような感じで読むことができます。

本記事では「ナポレオンを魅了した叙事詩」を紹介しています。

ナポレオンがどのような物語が好きだったかを見ていきましょう。

マクファーソン「オシアン(Ossian)の叙事詩」

ジェームス・マクファーソンによってまとめられた「オシアンの叙事詩」は架空世界の物語であり、ケルト神話の英雄フィン・マックールの息子オシーンが主人公オシアンの原型であると言われています。

ナポレオンの兄ジョセフは15~16歳頃のナポレオンの持っていた本の中に「オシアンの叙事詩」があり、ホメロスの「イーリアス」や「オデュッセイア」よりも好きだったと言っています。

1816年~1817年頃、ナポレオンはセントへエレナにおけるイギリス軍最高司令官であるパルトニー・マルコム(Pulteney Malcolm)提督の妻クレメンティーナがスコットランド出身であることを知ると、クレメンティーナにオシアンの叙事詩のことを知っているか尋ねました。

そしてナポレオンはマクファーソンが本当にオシアンの叙事詩を書いたのかを聞き、マクファーソンにはそれらを書く能力がないとクレメンティーナが素早く答えたことを笑ったと言われています。

ナポレオンが幼少時からオシアンの叙事詩に慣れ親しみ、セントヘレナ島においてもオシアンの叙事詩に興味を持っていたことがわかるエピソードです。

オシァン――ケルト民族の古歌 (岩波文庫)

タッソ「エルサレム解放(La Gerusalemme liberata)」

1096年~1099年に行われた第1回十字軍が舞台であり、キリスト教騎士達がエルサレムを奪取するためにイスラム教徒と闘う様子が描かれている叙事詩です。

コルシカ島ではジェノヴァとの独立紛争の間や、その後のフランスとの戦いの時にコルシカ人の間で歌われたと言われており、ナポレオンもラ・フェール砲兵連隊に所属していた頃に好んで読んでいたと言われています。

恐らく、コルシカ島独立のための戦いを十字軍のエルサレム解放に例えていたのだと考えられます。

ナポレオンも当時はコルシカの英雄パオリに憧れを抱いていたため「エルサレム解放」を読んだのでしょう。

ただ、もしかしたらナポレオン一家がコルシカ島から追放されたフランスとの戦いのときにも歌われたかもしれません。

タッソ エルサレム解放 (岩波文庫)

ホメロス「イーリアス」、「オデュッセイア」

ギリシアの吟遊詩人ホメロスの「イーリアス」と「オデュッセイア」は、ナポレオンがブリエンヌ軍事学校でいじめられ孤独だった頃によく読んでいたと言われています。

この頃のナポレオンはギリシアやローマ世界にかぶれており、そのため「イーリアス」「オデュッセイア」に魅了されたのだと考えられます。

「イーリアス」はギリシア神話のトロイア戦争末期が舞台であり、アキレウスとアガメムノンの対立から始まり、トロイア最強の戦士ヘクトールの葬儀までが描かれている物語です。

「オデュッセイア」は「イーリアス」の続編であり、トロイア戦争後のオデュッセウスとオデュッセウスの息子の物語です。

トロイア戦争と言えば、「トロイの木馬」で有名な戦争です。

ナポレオンはオデュッセイアよりもイーリアスを好んだと言われています。

イーリアス 下

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オデュッセイア(西洋古典叢書)

その他のホメロスの著作

もしかしたら、ホメロス好きのナポレオンも読んでいたかもしれないホメロスのその他の叙事詩です。

「ホメロス後日譚」は「イーリアス」と「オデュッセイア」の間の出来事が記されており、アキレウスの死やアイアスとオデュッセウスの武具争い、木馬作戦によるトロイアの落城、ギリシア船団の遭難などが描かれています。

「イーリアス」と「オデュッセイア」にはトロイの木馬のことは記されていないため、「イーリアス」と「オデュッセイア」を読むなら合わせて読んでおきたい叙事詩です。

「ホメロス外典/叙事詩逸文集」には「イーリアス」、「オデュッセイア」以外のホメロス作と考えられる叙事詩が収録されています。

ホメロス後日譚 (西洋古典叢書)

ホメロス外典/叙事詩逸文集 (西洋古典叢書)