ロシア・ウクライナ戦争の経過をかんたんに解説
◎ウクライナ侵攻の理由などが書かれた2022年3月1日時点の考察記事はこちら
2022年10月15日執筆
2022年11月14日追記
代理戦争とウクライナのNATO加盟申請
2022年2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻はすでに8ヵ月経過しようとしています。
この戦争に反対する国々はウクライナへ物資や武器を送るなどしてウクライナの支援を行っており、特にアメリカは積極的に兵器をウクライナに供与しています。
そのためアメリカとNATO側からの視点で見るとこの戦争は代理戦争です。
ウクライナの戦略としてはNATOに加盟することによってNATO軍を呼び寄せようとしていますが、NATO加盟国すべての承認が無ければ加盟できません。
アメリカやNATO軍はウクライナに兵器の供与や作戦面での支援を行うことで兵器の新陳代謝を行い、自国の損害無くロシアの戦略や戦術を把握して分析し、ロシアと直接対決することになった時に備えています。
NATO加盟国としては代理戦争の継続が望ましいと考えられるため、ウクライナのNATO加盟の見通しは不透明です。
加盟の可否は「その時の状況」によるでしょう。
開戦当初の状況
開戦当初の兵力は予備役兵含めるとウクライナ側が数的優位でしたが、兵器の質と量はロシア側が上回っており態勢でもロシア側が優位でした。
おそらくウクライナ軍は予備役兵含めたすべての兵員を武装させることはできなかったでしょう。
◎ウクライナの州一覧
そのためウクライナはヘルソン州とルハンシク州のほぼ全域、ザポリージャ州とドネツク州のほぼ半分、ハルキウ州の一部をロシアによって占領されてしまいました。
首都キーウ、第2都市ハルキウでも激しい攻防が繰り広げられ、後方地域もミサイルで砲撃されました。
まさにウクライナ全土を一気に掌握してしまおうとする勢いでした。
恐らくこの時のロシア軍の戦略は、ヘルソン州、ザポリージャ州、ドネツク州、ルハンシク州、ハルキウ州を攻撃している間に首都キーウを急襲して陥落させ、その後ウクライナ全土を掌握し傀儡政権を打ち立てることだったと考えられます。
対するウクライナ軍は、ロシア軍による序盤の攻撃を欧米の監視衛星などからの情報支援やサイバー(ハッキング)作戦などのおかげで適切な対応をとることができ、ロシア軍の勢いと物量によって大きく攻め込まれつつも制空権を失うことなく対抗できていました。
ウクライナ軍の粘り強い抵抗と欧米などによる武器供与
そしてウクライナ軍は自国を守るという士気の高さもあり、その後も粘り強い抵抗を行いました。
短期決戦を企図していたロシア軍は兵器や軍需物資が少なくなり、反対に欧米などから武器を供与されているウクライナ軍は徐々に盛り返していきました。
ウクライナ軍に足りなかった武器をアメリカやNATO軍などが補ったのです。
この時期にウクライナ軍に供与された武器は、小銃や機関銃、アサルトライフルなどの武器はもちろん、携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」、携行式多目的ミサイル「ジャベリン」、携行式対戦車ミサイル「NLAW」、携帯式地対空ミサイル「PZR Grom」、使い捨て対戦車ロケット弾「M72」など歩兵が航空機や戦車、装甲車などを破壊可能な一撃離脱ができる武器が大多数を占めていました。
※これらのミサイルは歩兵が持ち運びでき、肩に担いで発射したり地面に置いて発射したりするタイプのミサイルです。
ロシア軍の序盤の攻撃を少ない被害で受け止め、ウクライナ軍の潜在的な兵力の多さを生かす武器選択ですので、これらの武器供与は最適だったのではないかと考えられます。
そしてウクライナ空軍と地対空ミサイルの存在によってロシア軍は航空戦を展開できない状況になりました。
その他に偵察用ドローンなども供与されており、ウクライナ軍は近距離での戦闘において分散的に偵察用ドローンを使いロシア軍の情報を得て効果的な反撃を行っていました。
ロシア大型揚陸艦「サラトフ」の撃沈
◎タピール級揚陸艦「サラトフ」
引用元:Wikipedia
2022年3月24日、南東部ベルジャーンシク港でタピール級揚陸艦「サラトフ」がウクライナ軍の攻撃で撃沈し、ロプーチャ級揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」と「ノボチェルカスク」は損傷を受けて港外に退避しました。
どのような攻撃手段だったのかの発表はありませんでしたが、ロプーチャ級揚陸艦「ツェーザリ・クニコフ」と「ノボチェルカスク」が黒海方向に向かって退避していることから黒海側からの攻撃では無く、陸側からのミサイルもしくは中高度滞空型の無人航空機などによる攻撃だったのではないかと考えられます。
ロシア軍のキーウ近郊からの完全撤退とブチャの虐殺
3月下旬、ロシア軍はキーウ近郊から撤退を開始し、ウクライナ軍はロシア軍の撤退に合わせて進駐しました。
ロシア軍はブチャからは31日までに完全に撤退し、その後にブチャに入ったウクライナ軍はブチャの惨状を目の当たりにしたと言われています。
そして2022年4月初旬、ロシアはキーウ近郊から完全に撤退し遠距離からの砲撃しか行うことができなくなりました。
この時のロシアの発表では兵力をキーウからウクライナ東部へ移動させるためとのことでしたが、キーウ陥落は困難であると考えたのでしょう。
しかし、ロシア軍は外線、ウクライナ軍は内線であるため東部への距離はウクライナ軍の方が近く、ウクライナ東部へ再配置するスピードはウクライナ軍の方が速いです。
そのためその速さの期間、ウクライナ軍が有利となりました。
キーウ周辺地域の奪還
キーウ陥落を防いだウクライナ軍は次の段階に移りました。
つまりロシアに制圧されたキーウ周辺地域の奪還とヘルソン州、ザポリージャ州、ハルキウ州への攻勢です。
この時点で欧米からの武器供与内容に変化がありました。
携行式ミサイルの供与は継続して行われつつ、自爆型ドローンや戦闘車両(戦車、装甲車、自走砲など)が多く供与されました。
これらの兵器は歩兵や戦車などの兵器、拠点への攻撃を行うためのものであり、ウクライナ軍がこれから攻勢をかけ始めることを意味しています。
ウクライナ軍はこの自爆型ドローンを使ってロシア軍の後方を攻撃し大きな成果を上げています。
S-300対空ミサイルシステムなども供与されており、制空権を失わないように配備されたのか、もしくは防空圏を広げるために配備されたのだと考えられます。
ウクライナ軍がこれから攻勢に出ることを考えると防空圏を広げるために配備された可能性が高いでしょう。
ロシア軍はキーウ周辺での支配地域を失い、ロシア軍による民間人への暴行などの被害があらわになってきました。
ロシアは歴史的に占領地の住民への暴行や強姦を行うことで知られており、第二次世界大戦の終わりにスターリンが日ソ中立条約を破棄して日本に宣戦布告し北海道の半分を手に入れようとしたとき、旧ソ連軍に占領された地域の住民への残酷さなどが旧ソ連軍に対抗する動機の1つとなっています。
3月31日に発覚したブチャの虐殺はその一例であり、民間人への暴行や強姦の被害は数千件に上ると言われています。
※ロシア側はこれらの虐殺や暴行、強姦を否定しています。
ウクライナはこのブチャの虐殺発覚以前はクリミア半島はもちろんドネツク州やルハンシク州などの東部地域を失っても戦争を終結させたいと考えていましたが、ブチャの虐殺発覚以降、ウクライナのすべての州(クリミア含む)を奪還しプーチン政権を打倒することを決定しました。
ロシア黒海艦隊旗艦「モスクワ」撃沈
◎スラバ級巡洋艦「モスクワ」
引用元:Wikipedia
4月13日、ウクライナ軍はオデーサ沖において、ロシア黒海艦隊の旗艦であるスラバ級巡洋艦「モスクワ」を2発の対艦巡行ミサイル「R-360 Neptune」で攻撃して撃沈させたと発表しました。
スラバ級巡洋艦「モスクワ」の撃沈はロシア黒海艦隊にとって痛撃であり、もはやオデーサ沖の封鎖の継続が困難となり黒海戦略の大幅な変更を余儀なくされました。
開戦してから約2ヶ月もの間ウクライナ海軍は「R-360 Neptune」を使用できるにも関わらず使用しませんでした。
恐らくこの約2ヶ月の間にロシア黒海艦隊の動向を観察し、ロシア艦艇の照合を行い「モスクワ」に狙いを定めていたのだと考えられます。
このことからウクライナ軍は状況を正確に把握して的確に効率よく攻撃していることが分かります。
ロシアの攻勢
4月18日夜からロシア軍はルハンシク州、ドネツク州、ハリコフ州のウクライナ陣地に対する集中砲撃を開始しました。
そして25日までにロシア軍は圧倒的な数的優位を達成し、ルハンシク州西部に位置するクレミンナを完全に占領し、ハルキウ州とルハンシク州西部からドネツク州に入り進軍を続けました。
ドネツ川渡河作戦(ドネツ川の戦い)の失敗
ドネツ川は東部戦線におけるウクライナ軍の戦略的防衛線でありドネツ川での攻防が今後の東部戦線の状況を左右すると考えられていました。
東部戦線はロシア軍の物量に押されており、ウクライナ軍は劣勢な状況となっていました。
しかしウクライナ軍は強い抵抗を行っていました。
5月5日、ロシアは砲撃によって掃討した上でドロニフカでドネツ川を渡河しようとして大きな損害を出し、5月10日にはビロホリウカで渡河しようとしたところ浮橋を破壊されその後方で集結していた部隊も粉砕されました。
5月12日、ビロホリフカとセレブリャンカの間に浮橋が建設され、これもまた破壊されました。
この一連の作戦によってロシア軍はドネツ川渡河に失敗し、約1,000人の兵士と多くの戦車や装甲車などの兵器を失ったと言われています。
アゾフスタリ製鉄所の陥落とロシア軍の前進
◎アゾフスタリ製鉄所
引用元:Wikipedia
キーウ方面からの攻勢は続きハルキウ方面ではロシア軍に大きな損害を与えているものの、ルハンシク州南西部やドネツク州では劣勢な状況が続いていました。
4月中旬頃までにマリウポリではアゾフスタリ製鉄所がウクライナ軍の組織的な抵抗の最後の拠点となって完全に包囲されました。
そして5月16日、完全に包囲され危機的状況にあったアゾフスタリ製鉄所が陥落し、ウクライナ側の発表によると2,500人以上が拘束されたと推定されました。
これによりロシアはマリウポリを完全に勢力下に置きました。
ルハンシク州南西部のポパスナもロシア軍が制圧し、5月23日、ドネツク州北部に位置するリマンが強襲されロシア軍はその一部を占領、30日までには完全に制圧しました。
一時的な痛撃とウクライナ軍による強い抵抗はあるもののロシア軍の支配地域は増加し、占領地の支配は強化されていきました。
5月初旬頃まででウクライナ軍の犠牲者(恐らく死傷者)は約10,000人に上り、イギリス国防省の分析ではロシア軍の損害は約15,000人が戦死した可能性が高いと言われています。
※両軍の損害はあくまでも推定であって実際の損害ではありませんし、実際の損害は誰も知ることはできないでしょう。
開戦から約3ヶ月経過したこの時点で1日当たりウクライナ軍は約100人、ロシア軍は約150人(負傷者含めればもっと)を失っている計算になります。
そしてロシア軍はウクライナ軍の約4倍の兵器を失っていることから、ウクライナ軍の戦死者はロシア軍の1/4の約4,000人と推定され、ウクライナ軍はロシア軍と比較して少ない兵器を効果的に運用していると推測できます。
「HIMARS」の供与とロシア軍の進軍停止
◎高機動ロケット砲システム:通称「HIMARS」
※パブリックドメイン
欧米などの武器供与は継続して行われ、6月下旬頃にはアメリカもM142 高機動ロケット砲システム、通称「HIMARS」をウクライナに供与しました。
7月に入りウクライナ軍はロシア軍に多くの損害を与えつつ、ヘルソン州及びザポリージャ州方面への攻勢をかけ、ロシア軍に占領されたドニエプル川右岸側の地域を解放していきました。
7月22日、ウクライナ、ロシア、トルコ、国連間で小麦粉の輸出再開で合意しましたが、その翌日に輸出再開のための重要な黒海沿岸の港湾都市オデーサがロシア軍からミサイルで攻撃されたことにより延期となるという出来事がありました。
ロシア軍にとってオデーサからトルコへの貿易航路が軍事利用された場合、ヘルソン州とクリミア半島を西側から攻撃される可能性があるという懸念があったのでしょう。
その後、ウクライナ軍はロシア軍の後方を遮断するために、7月26日にドニエプル川に架かるアントニフスキー橋を破壊し、その6㎞東に位置するアントニフスキー鉄道橋へも攻撃を行いましたが破壊はできず損傷させたのみでした。
そして7月28日、カホフスカヤ水力発電所に通じるダム橋とダム橋に付属する鉄道橋へ高精度ミサイルによる攻撃を行い、鉄道橋部分を破壊しました。
ウクライナ軍はドニエプル川右岸側の部隊を孤立させるために後方地域への攻撃を行ったのだと考えられます。
しかしロシア軍もこれまでのウクライナ軍の戦術に適応しつつあり、ウクライナ軍に供与された自爆型ドローンへの対応として電磁周波数帯域の利用状況を検知、分析した上で妨害する(電子戦)ようになっていたため、多くのドローンが撃墜されたと言われています。
「HIMARS」は7月初旬と7月下旬にも立て続けに4基づつ追加でウクライナに供与しており、ウクライナ軍はさらにより多くの「HIMARS」を要求しています(主にドンバス方面)。
ロシア軍はこれまでウクライナ軍の射程外に物資や弾薬を集積していましたが、ウクライナ軍に「HIMARS」が配備されたことによってより遠くへの長距離攻撃が可能となり、多くの物資集積所が攻撃されたと言われています。
ヘルソン州とザポリージャ州におけるウクライナ軍の攻勢が強まったことにより、7月中旬~下旬にかけてロシア軍の進軍は停止しました。
ロシア軍はこの進軍停止を「意図的な一時停止」と発表しました。
ウクライナ軍によるヘルソン州への新たな攻勢
8月10日、ウクライナ軍はカホフスカヤ水力発電所に通じるダム橋と周辺のロシア軍の施設に対してミサイル攻撃を行いました。
この攻撃でロシアの衛星通信ステーションが破壊されました。
おそらくダム橋への攻撃は陽動であり、本命は衛星通信ステーションの破壊だと考えられます。
これによりこの周辺地域におけるロシア軍の連絡線は一時的に寸断されました。
そして8月12日、カホフスカヤ水力発電所に通じるダム橋への攻撃が再度行われ、ダム橋は大きな損傷を受けたと言われています。
これによりロシア軍はドニエプル川で分断され、物資や人員の移動の多くはフェリーや新たに設置した舟橋に頼ることを余儀なくされました。
8月29日、攻勢の準備が整ったウクライナ軍はドニエプル川右岸側の地域の奪還のために新たな攻勢を開始し、ロシア軍はこの新たな攻勢に対応するために東部地域からヘルソン州のある南部地域へ兵力や物資の移動を開始しました。
「HIMARS」の活躍と北朝鮮への武器調達の打診
2022年8月下旬、アメリカは中高度地対空ミサイル・システム「NASAMS」や追加でドローンなどをウクライナに供与しました。
「HIMARS」などの活躍でロシア軍の備蓄弾薬が底を尽きかけたことにより、プーチン大統領は北朝鮮に数百万発にもおよぶロケット弾や砲弾の調達を打診しました。
これから商談が成立して北朝鮮から武器弾薬が運ばれる場合、到着はおよそ冬頃になります。
冬は雪に覆われるため戦車が活躍し、戦車や携行式対戦車ミサイルなどの保有数の多い方が有利となります。
これを見越してプーチン大統領は北朝鮮に武器調達を打診したのだと考えられます。
北朝鮮側は「ロシアに武器は今までも売却したことはなく、これからも売却するつもりはない」と談話を発表しました。
ただ、北朝鮮としてはロシアに武器を売却した方が自国の在庫を一掃でき、売却した資金で最新武器を調達できますし、盟友ロシアのためになりますのでメリットしかありません。
そのため売却した可能性が高いと言えるでしょう。
もし売却していた場合、北朝鮮の旧式兵器は最新兵器に置き換わり、韓国と日本にとって脅威となることが考えられます。
8月下旬時点の両軍の損害
8月初旬時点でアメリカ国防総省の高官によるとロシア軍の死傷者は70,000人~80,000人にのぼるのではないかという見方を示しています。
ウクライナ軍は8月下旬時点で約9,000人のウクライナ兵が死亡し、約45,400人のロシア兵が死亡したと推計しています。
5月初旬までの時点では約4,000人のウクライナ兵が死亡し、約15,000人のロシア兵が死亡したと推定していましたが、割合的にロシア兵の損害がより大きくなったことが分かります。
ウクライナ軍が反攻作戦により攻勢を強めたことが要因だと考えられます。
※これらの数値に民間人は含まれていません。そのため民間人も含めればより多くのウクライナ住民が死亡しているでしょう。
これらの損害から両軍はウクライナ軍が有利な消耗戦を行っていると考えられます。
ハルキウ州奪還作戦の開始と高速対輻射源ミサイル「HARM」の配備
◎高機動ロケット砲システム:通称「HIMARS」
※パブリックドメイン
9月6日、ウクライナ軍がハルキウ州奪還作戦を開始し、ロシア軍の重要拠点であるイジュームを攻撃しました。
ウクライナ軍は4月から戦車や装甲車などを供与されていましたが、それらの車両をこのハルキウ州奪還作戦まで温存してしました。
そのため4月~9月初旬までの間、ロシア軍は支配地域を広げていたのです。
9月8日、高速対輻射源ミサイル「HARM」含む総額6億7,500万ドルに及ぶ追加の安全保障支援を発表しました。
「HARM」の配備によりロシア軍の防空システムは次々と損害を受けたため電子戦ができない地域が広がり、それに伴ってドローンや有人偵察機の活動範囲が広がりました。
ハルキウ州奪還作戦は9月10日にはロシア軍がイジュームから完全に撤退するなどウクライナ軍優勢で推移し、ロシア軍は多くの兵士と兵器を失いました。
戦車や装甲車に加え、対砲兵レーダー、ドローンなどを失ったと言われています。
9月14日、ウクライナのゼレンスキー大統領はハルキウ州のほぼ全域を解放したと宣言しました。
ウクライナ軍の広報によるとヘルソン州、ザポリージャ州の攻勢を強めてロシア軍を引きつけた後、兵力をハルキウ州に振り向けて奪還に成功したとのことです。
この作戦にはアメリカ軍とNATO軍が関わっていたとされています。
ハルキウ州の奪還成功によりルハンシク州への大きな足掛かりができました。
そしてキーウ及びハルキウを守り抜いたことによりロシア軍に原子力研究所を占領される可能性は遠のき、ウクライナが「ブダペスト覚書」に反して隠れて核武装しようとしていたという証拠を捏造されることは防げるでしょう。
ロシアによる予備役兵の徴集
9月21日、ロシアのプーチン大統領は予備役兵の徴集を発表しました。
表向きは経験者を主体としておよそ30万人を徴集するということでしたが、実情は犯罪者、思想犯、一般市民の中の思想的に好ましくない者などプーチン大統領にとって不要な人物達を真っ先に徴集しようとし前線に駆り立てています。
この予備役兵の徴収は前線での兵士の不足とどれだけロシア人を犠牲にしようともヘルソン州、ザポリージャ州、ドネツク州、ルハンシク州の4州を手に入れるというプーチン大統領の決意の表れを物語っています。
ただ、予備役兵を徴集したとしても兵器が少なくなっている状況ではその数を活かすことはできないのではないかと考えられます。
そのためロシアとしてはあらゆるところから兵器を集める必要があるでしょう。
核の脅威とウクライナ軍の進軍
プーチン大統領はロシア軍が大部分を掌握しているヘルソン州、ザポリージャ州、ドネツク州、ルハンシク州のロシア編入の住民投票を行い、9月30日にこれらウクライナ4州を併合することを一方的に宣言しました。
それに伴ってプーチン大統領は核兵器の使用を匂わせてウクライナを脅しました。
ただ、ロシア軍が敗北しつつある状況ではこの脅しは現実味を帯びています。
この戦争にロシアが敗北した場合、プーチン大統領の足元が揺らぎ自身の権力が脅かされる可能性が高く、戦術核の使用が協議されているからです。
同日、ウクライナ軍はリマンを包囲し、翌日、リマンを奪還したと発表しました。
アメリカは9月28日と10月4日に「HIMARS」合計22基とその弾薬を供与することを発表しました。
この「HIMARS」の供与はより強力にロシア軍の占領地域を奪還していくという現れだと考えられます。
しかし9月下旬の時点でアメリカの弾薬備蓄は限界を迎え始めており、アメリカ自体の戦闘能力を損なうことなく供給できる限界に近づきつつある状況となりました。
これはウクライナにとって大きな不安材料であり、本格的な冬の到来前までにより多くの地域を奪還し、ロシア軍が有利となると考えられる冬に備える必要があることを示唆しています。
もし冬にウクライナ軍の武器が不足すると予測される場合、進軍を止める必要があるでしょう。
クリミア大橋の大破
◎クリミア大橋
※パブリックドメイン
2022年10月8日早朝、クリミア大橋が爆発によって大破しました。
利害関係からウクライナ軍の攻撃の可能性が高いと考えられますが、現在のところ事故なのかどの勢力が攻撃したのか不明です。
橋の上を走るトラックが爆発したという見方が一般的ですが、著者自身は自爆型ドローンによる攻撃なのではないかと考えています。
クリミア大橋が大破したことにより、ヘルソン州への兵器や物資の輸送の一部が遮断されロシア軍の戦況は悪化するでしょう。
クリミア半島から進軍したロシア部隊も動揺しているのではないかと考えられます。
このクリミア大橋の大破によってウクライナ軍はヘルソン州とザポリージャ州での攻勢を強めること、そしてヘルソン州とザポリージャ州の兵力をさらに東部戦線へ送り東部戦線の攻勢を強めることなど選択肢が増加しロシア軍はそれに翻弄されるでしょう。
しかし本命はヘルソン州とザポリージャ州の奪還なのではないかと考えられます。
ロシア軍によるウクライナ西部地域へのミサイル攻撃
10月10日、クリミア大橋の大破により、ロシアのプーチン大統領は精密な調査結果を待たずウクライナの攻撃と決めつけ、ウクライナ西部地域へのミサイル攻撃を行いました。
リヴィウ州、テルノーピリ州、フメリニツキー州、ジトーミル州、ドニプロペトロウシク州へのミサイル攻撃を行い、ザポリージャ州ではロシア軍が住宅地への攻撃を行いました。
ロシアの発表ではウクライナ軍のインフラ施設への攻撃を開始したとのことでしたが、ザポリージャ州では住宅地へ攻撃しているため、インフラ攻撃と同時にウクライナ市民へ恐怖を植え付けるために行ったものだと考えられます。
そしてこの攻撃での被害を理由にウクライナはEUへの電力輸出を停止することを発表し、EUにロシアの脅威を継続的に訴えました。
実際、リヴィウでは停電があり、夜間以外は電気は止められるなど国内電力もひっ迫している状況でした。
このクリミア大橋大破の報復に見えるミサイル攻撃ですが、攻撃があった日にロシアのウクライナ方面軍の総司令官が交替しており、これ以降の戦略の転換点であるとも考えられます。
制空域の拡張とウクライナ軍の航空戦略
10月12日、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアのミサイル攻撃に対応するために防空能力の増強支援を各国に求めました。
イギリス、フランスはこれに応じて地対空ミサイルやレーダー、ドローンなどを供与することを決定しました。
今回の防空能力増強支援要求はクリミア大橋大破の報復としてウクライナ西部地域にミサイルが撃ち込まれたため、その対策として防空能力の増強支援を求めたものですが、ウクライナは開戦当初から防空能力を強化し続け、ロシア航空機を近づけさせないという戦略が功を奏し、航空戦に発展することなく陸軍の進出とともに制空域を広げていっています。
恐らく今後も陸軍が地域を奪還するたびに地対空ミサイルなどが配備され制空域を広げていくと考えられます。
ロシア軍による後方地域へのミサイル攻撃の継続 <2022年11月14日追記>
10月8日のウクライナ方面軍総司令官交替以降、やはりロシアの戦略は変化しました。
ミサイルやイラン製自爆型ドローンなどを使いウクライナの勢力下にある地域のインフラ施設破壊を行いました。
これによりウクライナは発電所の30%が破壊されたと発表しました。
10月21日、ロシア軍はヘルソン州にあるウクライナ軍の武器庫を破壊したと発表しました。
そしてこれ以降もドローンでの攻撃やミサイル攻撃が断続的に行われ、電気だけではなく水道なども被害を受けたと言われています。
ロシア軍は後方地域への攻撃を行い、主に電力供給を減少させ、冬もしくはそれ以降の戦況を有利にしようとしているのだと考えられます。
この戦略は長期戦を見据えたものであり、同時に動員した兵士の訓練も行うつもりなのでしょう。
つまりロシア軍はウクライナの後方に位置するエネルギー施設や武器庫を破壊してウクライナ軍を弱らせた上で、動員した兵力を用いてウクライナ軍を打ち倒そうとしているのだと考えられます。
これに対してウクライナのゼレンスキー大統領は「ウクライナのエネルギー施設に対するロシアのテロ行為は、この秋と冬に電力と暖房を巡る問題を最大限作り出し、ウクライナから欧州諸国に多くの移民が流入するように仕向けることを目的としている」と発表しました。
このようにゼレンスキー大統領は「EUへの移民の流入」がEUの問題になる可能性があることを理由にウクライナへの軍事支援の強化を要求し、ロシア軍の戦略は秋と冬に主に暖房を使えなくすることであると示唆しました。
ヘルソン州におけるドニエプル川右岸側からのロシア軍の撤退 <2022年11月14日追記>
11月に入り、ロシア軍はヘルソン州のドニエプル川右岸側からの撤退を始めました。
ヘルソン州ではドニエプル川に架かるアントニフスキー橋、アントニフスキー鉄道橋、ダム橋とダム橋に付属する鉄道橋の3つの橋が破壊ないし損傷しており、ウクライナ軍からの継続的な長距離攻撃によってこれらの橋や舟橋の修復もままなりませんでした。
そのためドニエプル川右岸側の地域で戦っているロシア軍部隊は不利な状況での戦いを強いられていたのです。
ロシア軍がドニエプル川を渡っての撤退中、これら3つの橋とドニエプル川右岸側の支流に架かるダリブ橋が破壊されました。
これらの破壊がロシア軍の「渡橋中」にあったのであればウクライナ軍による攻撃の可能性が高く、「渡橋後」にあったのであればロシア軍による攻撃の可能性が高いと言えるでしょう。
両軍ともに相手の仕業であると発表しています。
今後の展開
ウクライナの冬は非常に寒く、1月、2月は最高気温が氷点下となるため冬での戦闘に備える必要があります。
日本も武器を送ることができないならこの時期ホッカイロや防寒着、防寒靴などを送ればウクライナの兵士達も助かるでしょう。
ウクライナは欧米各国に戦車や対戦車ミサイルなどを要求して配備する必要がありますが、欧米各国が応じられるかどうかは不透明です。
ウクライナは欧米などによる武器の供与さえ継続し、ロシアに大きな支援がなければウクライナ全土を奪還することも視野に入ってきています。
ウクライナがロシアに有利と思われる冬を乗り越えることができれば、何か大きな変化が無い限り、ロシア軍は激しく抵抗しつつ新たに動員された練度の低い兵士達も消耗戦に巻き込まれ、今以上の損害を出して後退していくのではないかと考えられます。
しかしウクライナ軍も厳しい状況だと考えられますので、ウクライナ軍側が先に限界を迎える可能性もあるでしょう。
戦略核及び戦術核の使用についての考察
プーチン大統領は2020年6月2日に核兵器保有の基本方針を定めた「核抑止力の国家政策指針」に署名しています。
「核抑止力の国家政策指針」では核兵器の使用を認める状況として4つを定めています。
1、ロシアや同盟国に対して弾道ミサイルが発射された場合。
2、ロシアや同盟国に対する核兵器や大量破壊兵器による攻撃があった場合。
3、国家の存続を脅かす通常兵器を使った侵略があった場合。
4、核兵器による報復攻撃を妨げるような国家やロシア軍の主要施設に対する敵の働きかけがあった場合です。
使用は大統領が決定します。
ロシア・ウクライナ戦争においては特に3の場合に核兵器が使用される可能性が高いでしょう。
これらのことを踏まえ、プーチン大統領が核の使用に踏み切るタイミングは4つあります。
タイミング①:ヘルソン、ザポリージャ、ドネツク、ルハンシクの4州を失う前
このタイミングはロシアが上記ウクライナ4州を失わないようにするための使用となります。
プーチン大統領はウクライナ4州を一方的に併合すると宣言しましたが、これは核兵器使用を睨んだ宣言となります。
現在この4州で戦いが続いているため、使用されるのは恐らく戦術核であり、戦況を挽回しようとするでしょう。
国連で承認されていない併合をロシアがどのように受け止めているかがわかります。
ただ放射線物質に汚染された地域では士気の低いロシア軍は戦えないと考えられますので、おいそれと使えないのが実情でしょう。
タイミング②:ヘルソン、ザポリージャ、ドネツク、ルハンシクの4州を失った後
この4州を失った場合、プーチン大統領の権力基盤が揺らぐだろうと考えられることが理由です。
報復的な意味合いはもちろん、これ以上進軍するなという脅しとして戦術核もしくは戦略核のどちらかが使用されるでしょう。
タイミング③:ウクライナがクリミア半島を取り戻そうとした時
このタイミングでは戦術核もしくは戦略核が使用されるでしょう。
クリミア半島も2014年からロシアが一方的に併合を宣言し、実効支配している地域です。
約8年間実効支配しているため先の4州と比較して自国領であるという意識がより高く、核を使用したとしてもロシアの友好国からの理解も得られやすい考えられます。
先の4州を失った場合はまだ言い訳の余地がありますが、それに加えてクリミア半島も失った場合、ロシアの完全敗北を意味します。
タイミング④:ウクライナがロシア本土に攻め入った時
タイミング①~③は国連で承認されていない併合地域でしたが、ロシア本土に攻め入った場合は完全に「核抑止力の国家政策指針」の3に当てはまります。
このタイミングの場合、恐らく戦略核が使用されるでしょう。
プーチン大統領に核の使用を諦めさせるには
ハルキウ州奪還作戦以降、ロシア軍の劣勢が続いておりウクライナ軍は勢いを増しています。
そしてクリミア大橋が大破し、ヘルソン州、ザポリージャ州の兵士達も動揺を隠せないでいます。
そのためプーチン大統領が核の使用に踏み切る可能性は日に日に高まっていっています。
しかしウクライナにとってヘルソン、ザポリージャ、ドネツク、ルハンシクの4州とクリミア半島は一方的に奪われた地域であり奪還しなければならない地域です。
これら地域を核の脅威無く取り戻すためにはプーチン大統領に核のボタンを押させないようにロシア国内からの、そしてロシアの友好国からの圧力が必要になってくるでしょう。
ロシア・ウクライナ戦争終戦についての考察
ウクライナのゼレンスキー大統領は10月4日に「ロシアのプーチン大統領と今後協議することを不可能とする法令」に署名しました。
そして後方からウクライナに武器を供与しているアメリカのバイデン大統領はロシアがウクライナで消耗し、ロシア国民が反プーチンを掲げて立ち上がり新たな体制を築くことを望んでいると考えられます。
もし終戦したいのなら、第三国や裏の外交ルートを通じてコンタクトを取り交渉を行いますが、ウクライナもアメリカもプーチン大統領を権力の座から引きずり下ろすことを考えています。
そのため現状では終戦の見通しはまったく立っていません。
ですが、終戦する可能性が高いシナリオは3つ存在します。
シナリオ①:ウクライナが戦略目標を達成する
このシナリオの場合、ウクライナ側の戦略目標が問題です。
開戦当初の戦略目標はウクライナ侵攻前の状況に戻すことでしたが、プーチン大統領を権力の座から引きずり下ろすことが戦略目標に置き換わっている印象を受けます。
ウクライナ側としては条約違反を繰り返すプーチン大統領という安全保障上の不安材料があるため交渉しても無意味であるということなのでしょうし、ロシア軍を消耗させウクライナ軍が勝ち続けることによってロシア国民を目覚めさせることを考えているのでしょう。
そのためプーチン大統領を失脚させることがウクライナ軍の現在の戦略目標だと考えられます。
プーチン大統領が失脚するまでが大変ですが、失脚する時は恐らく反戦ムードが高まっている時だと考えられるため終戦交渉で揉めない限り終戦は比較的容易でしょう。
シナリオ②:両軍の消耗が限界を迎える
ロシア、ウクライナ両軍は開戦当初から長大な戦線を形成し、激しい消耗戦を繰り広げています。
そしてウクライナは武器を欧米各国に依存しており、アメリカもロシアも弾薬備蓄が尽きかけています。
ロシア軍もウクライナ軍も消耗が限界を迎えて危機に陥るもしくは全くメリットが無い状況となった場合、休戦もしくは終戦を考えるでしょう。
このシナリオの場合、両国は妥協点を話し合い、第三国が仲介して休戦もしくは終戦となるでしょう。
ただ、ウクライナ側はプーチン大統領を信用していないため妥協点を見いだせない可能性があります。
シナリオ③:ウクライナ軍が敗北する
ロシア軍もそうですがウクライナ軍もかなりの消耗をしていますし武器や弾薬も尽きかけています。
そのため、冬の戦況にもよりますがウクライナ軍が先に限界を迎えることも十分あり得ます。
その場合、ロシア軍は盛り返し限界点に達するまで前進して終戦を迎えるでしょう。
このシナリオの場合、ゼレンスキー大統領や政権幹部は第三国に亡命するかもしくはロシアに拘束される可能性があり、ロシアに割譲された地域には傀儡政権が樹立されるでしょう。
そしてウクライナは戦争犯罪の追及も諦めざるを得なくなるでしょう。
ロシア・ウクライナ戦争と日本の安全保障との関係
日本は地政学的にロシア、中国、アメリカという大国に囲まれ、北朝鮮も含めると4ヵ国の核保有国に囲まれています。
日本にとって最悪なシナリオは中国、北朝鮮、ロシアと同時に戦わなければならない状況であり、その場合、日本は戦場となり台湾、アメリカ、オーストラリア、韓国などとともに対抗することになるでしょう。
もし台湾がすでに中国に併合され、韓国が日和見をした場合、この2国は参戦できませんし、太平洋側からも攻撃を受けることになるでしょう。
しかしロシアがウクライナとの戦争で消耗し敗北した場合はどうでしょう?
ロシアは恐らく十数年は立ち直ることができず、その間、日本は法の許す限り最悪のシナリオを回避するための体制を整えることができるでしょう。
もしかしたらロシアで民主主義政権が樹立され、日本やアメリカと良い関係を築けるかもしれません。
そのため日本としてはロシアにはウクライナで大きく消耗し敗北してもらわなければならないのです。