エジプト戦役　42：ヴィルヌーヴ艦隊のマルタへの到着とファイユーム州遠征でのムラード・ベイ軍との戦いの始まり
Villeneuve's fleet arrives in Malta

ヴィルヌーヴ艦隊のマルタへの到着

　1798年9月30日、ナイルの海戦の生き残りであるヴィルヌーヴ将軍が、戦列艦「ギョーム・テル」、フリゲート艦「ディアーヌ」、「ジュスティス」を率いてマルタに到着した。

　ヴォーボワ将軍はヴィルヌーヴ艦隊を受け入れ、ヴィルヌーヴ将軍からナイルの海戦の詳細と地中海の情勢、そして同じくナイルの海戦の生き残りである戦列艦「ジェネルー」が8月17日にヴィルヌーヴ艦隊から分離されてコルフ島へ向かったことなどを聞いた。

　マルタの港にはマルタ軍から奪い取った戦列艦「デーゴ（Dégo）」、「アテニアン（Athénien）」、フリゲート艦「カルタジノワーズ（Carthaginoise）」の3隻が停泊しており、フランスのマルタ艦隊は戦列艦3隻、フリゲート艦3隻、合計6隻となった。

　この時、ヴォーボワ師団の大部分は要塞都市ヴァレッタに集結していたものの、一部は要塞外とゴゾ島に陣取っており、反乱軍との小競り合いを継続していた。

　ボナパルトがマルタに物資を送るよう要請したからか、船での輸送により物資面も充足している状況だった。

ドゼー師団のアル・バーナサへの到着

　ベニ・スエフ州とミニヤー州に豊穣をもたらしたジョセフ運河は、砂漠の拡大を防ぐ障壁となっていた。

　しかし、マムルーク朝の統治下で、運河の堤防は荒廃し、周辺の水路は塞がれ、河床は徐々に隆起していた。

　ドゼー師団のボートがジョセフ運河の支流を進んでいたとき、逆風と盆地の底に滑り落ちた土砂によって座礁した。

　およそ1時間ごとに座礁し、士官も兵士も動く泥の中に入り、ボートを救出した。

　そのような中、兵士達はヘルモポリス（Hermopolis）のヘルメス神殿の遺跡である柱廊式玄関の12本の柱を見た。

　航行は遅く、多くの困難をともないながら、10月2日、ようやくアル・バーナサにたどり着いた。

バニ・ミ二ヤン周辺での戦闘

※1798年10月3日、バニ・ミニヤンでの戦闘

　10月3日、運河での長く困難な航行の末、ドゼー師団の前衛部隊はバニ・ミ二ヤン（Bani Minayn）村の近くでムラード・ベイ軍の駐屯地を発見した。

※「ベルティエ元帥の回想録」ではメネキア（Menekia）と書かれているが、メネキアはバニ・ミニヤン（Bani Minayn）だろうと推測した。現代の地図にも古地図にもメネキアという名の村や町は無く、メネキアに近い発音や別名の村や町も無い。ミニヤー州の名前はメナ・クフ（Men'at Khufu）が語源とされており、バニ・ミニヤン（Bani Minayn）の語源も同じくメナ・クフ（Men'at Khufu）とされている。1798年当時、バニ・ミニヤン（Bani Minayn）は、メナ・クフ（Men'at Khufu）に近い名前で呼ばれていたのだろうと考えたため、メネキアはバニ・ミニヤンだろうと推測した。恐らく、当時はメナクヤやメナキアなどと呼ばれており、そこからミニヤンになったのだろう。バニ・ミニヤン（Bani Minayn）村は位置的にも「ベルティエ元帥の回想録」の前後の文章との整合性がとれている。
もちろんバニ・ミニヤン＝メネキアではない可能性もある。

　ドゼー将軍は上陸を命令し、分遣隊とともに遠くエル・ラフン（El Lahun）までの遠方の運河を支配する砂丘へ向かった。

※エル・ラフン（El Lahun）は資料ではイラホン「Illahon」と記述されている。イラホン「Illahun」はエル・ラフンの別名である。

　そして前衛同士の銃撃戦が始まった。

　しばらく後、ムラード・ベイ軍の前衛部隊が撤退し、常に逃走してフランス軍を艦隊から引き離そうとした。

　ドゼー将軍がその作戦に引っかかることは無く、師団は再び乗船して運河を下って追跡を続けた。

約束手形の発行の決定

　10月3日、遂にボナパルトが計画していた約束手形を発行することが決定された。

　1ヵ月以内に支払われるものが60,000フラン、2ヶ月以内に支払われるものが60,000フラン発行される見込みとなった。

※ナポレオン1世書簡集で、9月27日の約束手形発行の計画段階では通貨単位はリーブル（livre）だったものが決定段階ではフラン（franc）となっている。この理由は不明である。そもそもフランスの法定通貨は1795年にリーブルからフランに切り替わっている。ただ、1795年以降もフランをリーブルと言っている人達もいたという事情もある。

　これ以降、支払いは約束手形で行われることとなり、業者への支払いは1ヵ月～2ヶ月間先延ばしにされることとなった。